新ブランド開発は
いつも規制の概念との戦い
世の中には既成の概念というものが存在します。その頃のかりんとうの包装形態はどういうわけだか決まっていました。透明のビニール袋にかりんとうを入れる形態です。もしくは上部の一カ所を紐でくくり扇のように広げて「はいギフト包装です」といった感じです。
この包装形態が、どうしても私が考えるターゲット(素敵でナイスな奥様)の心に刺さる気がしなかったのです。私たちは何とか今までにないパッケージデザインを作り出したいと思いはじめていました。
ギフトとは大切な人を想い、その気持ちをカタチにするコトだと思う。 だから、開発に携わる私たちには、ギフトボックスの素材や質感を大切に考える感性が必要だと思っています。
コストとの戦いは当然ありますが、ありきたりなモノを作りユーザーの心が動かなければ、ブランドを立ち上げる意味がありません。
そんなことを考えながら麻布かりんとのパッケージ素材をどうするかを悩んでいる時に、私たちは「素敵な一枚の和紙」と出会いました。
それは包材としては非常に高価な和紙でしたが、まずは試しに作ってみることにしました。やがて、デザインチームから「かりんとうを素敵な和紙で包んだパッケージ」が上がって来ました。それは今までに見たことのない包装形態だし、何よりも美しいパッケージでした。
しかし、そこで大問題が持ち上がります。それは中身が見えないということ。
人間は規制の概念に縛られるものである。
「かりんとうのパッケージなのに中身が見えないなんて・・」
「50種類以上もあるかりんとうをどうやって選ぶのか??」
今となっては不思議な感じがしますが、その当時はクライアントはもちろん、弊社のスタッフまでもそのことを問題視していました。
これが規制の概念ということなのでしょう。
困った。どうしようか?デザインチームをはじめ、プロジェクトスタッフみんなで悩んでしまいました。逆の言い方をすれば、この和紙で包まれたパッケージは何か不思議な魅力を持っていたので「没案」にはしたくなかったのです。
プロジェクトは暗礁に乗り上げました。「かりんとうの中身が見えないパッケージは今の世の中では許されないのか・・?」
デザインチームがさじを投げて自暴自棄になっていた時に、そのビッグニュースが飛び込んで来ました。
地方に安く食品サンプルを作る会社があるという知らせでした。
かりんとう50種類の食品サンプルを作り、売り場でパッケージの前にその樹脂でできた食品サンプルをきれいにディスプレイすれば商品の中身がわかります。中身がわかる売場を作れるなら、素敵な和紙で包んでしまってもパッケージとして成り立つではないか! 私たちは暗いトンネルの中で一筋の光を見つけた気分でした。
今から思えばその食品サンプル制作会社との出会いがなければ、あの素敵な和紙で包み込む麻布かりんとのパッケージは出来上がらなかったのでしょう。